耐力壁とは
外壁は雨や風を凌ぐため(建物を守るため)、内壁は部屋の空間を仕切るため、そんな役割がありますが、壁には構造的に大きな役割を持った壁、「耐力壁」があります。
耐力壁とは、地震や風などの横から作用する力(水平力と言います)に対して、建物が揺れたり壊れたりすることがないように抵抗する壁のことを言います。それに対して、構造的に役割を果たさない壁を「非耐力壁」と言います。もしくは、空間を仕切るという意味で、「間仕切り壁」と呼んだりします。
同じ外壁や内壁であっても、それが耐力壁になっている場合と耐力壁ではない壁、つまり、非耐力壁になっている場合があります。
そして、建築基準法では耐力壁に関する基準が定められています。建物を計画する時は、耐力壁について適切に計画する必要があります。
耐力壁の種類
耐力壁に用いられるのは、主に筋かいや面材
耐力壁の材料としては、昔から主に筋かいが用いられてきました。筋かいは上図のように柱と柱の間に設けることによって、横から作用する力に対して抵抗させるようにします。
水平力は東西南北いろんな方向からかかることが想定できますが、上図の場合、仮に左から水平力が作用する場合は、筋かいは突っ張る形で抵抗します。この時筋かいは圧縮力を負担していると言えます。反対に、図の右側から水平力が作用する場合、引っ張られる形で抵抗することになります。この場合の筋かいは、引張力を負担していることになります。
筋かいには、圧縮力を負担する場合と引張力を負担する場合があるのです。
筋かいに用いられる材料ですが、圧縮力を負担する筋かいは、厚さ3cm以上幅9cm以上の木材、引張力を負担する筋かいは、厚さ1.5cm以上幅9cm以上の木材又は径9㎜以上の鉄筋となっています。
耐力壁には筋かいの他に、構造用合板などの面材を打ち付けるものがあります。面材を打ち付ける耐力壁は、最近では特に増えてきていると言えます。
耐力壁は、筋かいを設けたり面材を打ち付けたりしますので、基本的に窓などの開口部は設けることができません。場合によっては、窓をたくさん設けたくてもできないことがあります。
耐力壁は、使う材料や大きさによって強さが変わる
先ほど、圧縮力を負担する筋かいは、厚さ3cm以上幅9cm以上とお伝えしましたが、これよりも厚みがある材料でしたら、当然その強さは大きくなります。では、どの大きさのものがどの程度大きくなるのでしょうか、これは基準法施行令の中で決められています。
軸組(耐力壁)の種類とその倍率(施行令第46条表1)
軸組の種類 | 倍率 | |
(1) | 土塗壁または木ずりその他これに類するものを柱および間柱の片面に打ち付けた壁を設けた軸組 | 0.5 |
(2) | 木ずりその他これに類するものを柱および間柱の両面に打ち付けた壁を設けた軸組 | 1.0 |
厚さ1.5cm以上で幅9cm以上の木材または径9mm以上の鉄筋の筋かいを入れた軸組 | ||
(3) | 厚さ3cm以上で幅9cm以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 1.5 |
(4) | 厚さ4.5cm以上で幅9cm以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 2.0 |
(5) | 9cm角以上の木材の筋かいを入れた軸組 | 3.0 |
(6) | (2)~(4)までに掲げる筋かいをたすき掛けに入れた軸組 | それぞれの数値の2倍 |
軸組の倍率を強いものにすれば、その分窓を多く設けたり、壁の量を少なくして、開放的な空間を作ることがしやすくなりますね。
軸組の有効長さ=実際の壁長さ×壁倍率
下図の左側が「方入れ」、右側が「たすき掛け」です。
たすき掛けは壁倍率が2倍なので、実際の壁の長さは半分ですが、有効長さは等しくなります。
耐力壁は、材料の組合せによっても強さ(倍率)が変わる
面材を打ち付けた場合もその面材の種類や厚みによって倍率が変わります。また、面材の場合は、壁の両面に打ち付けることが可能です。同じ面材を両面に打ち付けた場合は、倍率は2倍とすることができます。
ただし、片面に2枚打ち付けた場合は、2倍とすることができません。
更には、筋かいと面材の組み合わせも可能です。その場合は、それぞれの倍率を合計することになります。
ただし、倍率の合計が5を超える場合は「5」となります。軸組の強さは、どれだけ筋かいや面材を組み合わせても5倍が最高ということになります。
軸組を組合せることによって倍率も加えることができる。
ただし「5倍」が限度。
壁量(必要な耐力壁の長さ)
耐力壁はその作り方によって倍率(強さ)が違うことがわかりました。では、必要な長さはどのようにして算定するのでしょうか。
その算定の方法は、建築基準法で定められていますが、大きくは2つの考え方があります。
水平力は主に地震力と風圧力がありますので、それぞれに対して、安全を確保する必要があるのです。
- 地震力に対して必要な壁量を求める
- 風圧力に対して必要な壁量を求める
- 上記2つ、両方を満たす必要がある
張間方向(はりまほうこう):小屋梁に平行な方向。一般的に短手の方向。
桁行方向(けたゆきほうこう):小屋梁に直角な方向。一般的に長手の方向。
地震力に対して必要な壁量
地震力に対して必要な壁量は、張間方向・桁行方向間方向共に、床面積に令第46条に定める数値を乗じます。
床面積に乗じる数値(施行令第46条表2)※実際は3階建もあります。
建築物 | 床面積に乗ずる数値〔単位:cm/m2〕 | ||
平家 | 2階建ての1階 | 2階建ての2階 | |
土蔵造り・瓦葺き | 15 | 33 | 21 |
金属板葺き | 11 | 29 | 15 |
例えば、瓦葺きで床面積50m2の平家建て建物の場合、
50×15=750cm
張間方向けた行方向共に、750cmの長さの軸組が必要です。
ちなみに、壁倍率3倍の軸組にした場合は、1/3の250cmとなります。
地震力に対して必要な壁量についてポイントを整理します。
- 地震力に対しては、張間方向と桁行方向共に床面積に乗じる数値は同じ。つまり、必要な壁量は各方向同じとなる。
- 建物の種類によって乗じる数値は異なる。建物や屋根が重たいほど、乗じる数値は大きい。つまり、必要壁量は多くなる。
- 2階や3階建ての場合、下の階ほど乗じる数値は大きくなる。
風圧力に対して必要な壁量
風圧力に対して必要な壁量は、風が当たる壁の面積によって決まります。
例えば、下図(平面図)において下からの風は、Aの壁に当たることになります。そしてその風圧力に対しては、張間方向であるBの壁が抵抗する(支える)ことになります。
よって、張間方向の壁Bの必要な長さを求めるには、Aの壁の見付面積(床から1.35mより上の部分)に、施行令46条の数値を乗じることになります。
反対に、桁行方向に必要な壁量は、Bの壁の見付面積に、施行令46条の数値を乗じます。
見付面積に乗じる数値(施行令第46条表3)
区域 | 見付面積に掛ける数値 |
特定行政庁が指定する区域 | 50を超え75以下の範囲 |
上記以外の区域 | 50 |
風圧力に対して必要な壁量についてのポイントは以下の通りです。
- 風圧力に対しては、各方向の見付面積に所定の数値を乗じて求める。一般に、張間方向の方が必要壁量は多くなる。
- 風が強い地域は、乗じる数値が大きくなります。つまり、必要壁量は多くなる。